『祈り』CV 秋野かえで
いぬのしっぽ 秋野かえでさんの優しい語り口で朗読された物語。小説と散文詩の間のあなたに語りかけるようなお話しをお楽しみください。
物語抜粋-sample-ゲワシと少女。
有名な一枚の写真がある。
あの写真とおんなじような地域のどこにでもあってはいけないけれどどこにでもある紛争地帯のお話。
どこにでもいる少女が、か細い祈りを捧げたけれど全部裏切られてしまったお話。
少女はそこにいた、年端もいかない子供だ。
少女はぼろ布をまとっていた。
けれども信心深さは誰よりもあった。
戦争屋が安上りの銃弾と兵器を売りさばき。
少女は運悪くそれを担いで構えて訓練をして隊列を組んで、武装していた。
少女には同じ運悪く似たような境遇の友達がいた。
男の子でも女の子でも、その日のデザートのチョコのかけらが少し多かったとかそんなちょっとのことでも真剣に大笑いした。
ある日少女はまたしても運悪く大人たちの言うムズカシイ作戦に参加させられた。
理由なんかどうだっていい。
ちょっと足が遅いとか。
ごはんを食べるのが遅いとか。
銃の組み立てが遅いとか。
作戦ははじめからうまくいく算段がついたものではなかった。
音が先なのか光が先なのかもの凄い爆発のあと少女ははぐれた。
戦場において隊列からはぐれ隊長の指示を仰げないということは直結してこれから死ぬということを表す。
銃弾の連続した素早い音に恐怖した。
しかしなによりも恐怖したのは何もできないということだ。
そして何も救ってくれやしなかった神様への気持ちに絶望した。
その時少女の信仰が死んだ。
すべてを頼って、いつかなんとかなると思った。
だって私が死ぬはずないもの。
だって私は私なのよ。
死ぬってどういうこと、殺してしまうってどういうこと。
どうして争うの。
どうして戦わなきゃいけないの。
私がなにをしたっていうの。
彼女はより長く生きながらえるためにそれを心の中でさんざんわめいた。
――ああ、神様。
どうか私を助けてください。
鉄が鳴り石が砕ける音が近づいた。
ここまでが全部裏切られてしまったところまでのお話。
お話には続きがある。