絹雨桜
碧い清流 その土地で、唯一桜がある場は、果し合いや、殺し合い、人が最期を迎える格好の場所となった。樹齢ニ百年を超えた桜の樹には無数の刀傷が刻まれていた。
一体どれほど命が失われてきたのを見てきただろうか。
けれど、どれだけ傷がついても、桜は毎年毎年花を咲かせてしまう。
『わたくしの家系は、土地に唯一ある桜の樹を見守るというお役目を担って参りました。
大きな幹には数え切れないほどの刀傷がありました。
それはその場で刀を交えたという証、そして最期を迎える人々の生きた証、というものでした。
激しい斬り合いの最中に、偶然についた傷もあったようでしたが、多くは各々が斬り合う前や終わったあと、その証を残すために一刀を刻んでいったというものでした。
桜は言葉通りにその身を傷つけながら、人々の最期を看取ってきたのでございます。
わたくしは桜の幹に触れるたび、いつも思ってしまいました。
一体、二百年以上もの歳月、どれほどの命が失われてきたのをこの桜は見てきたのだろう、と……。
それでも、この桜は、また花を咲かせる次の春を待ちわびるのだろうか、と……』本作の時間25:30※癒し系作品ではありません。
※文章(シナリオ)のみのPDFファイルと紹介画像2点同梱シナリオ:純章(すみゆき)出演:美鈴唯雨音はバイノーラル収録をしています。