皇女凌俗放送

WestVision
南国の小さな島『バラライカ』で起こった、クーデターによる軍事政権の樹立。
だけど、それは世の中から見れば些細なこと。
遠く地を隔てた日本では、さる大物TVプロデューサー『片仲ケンジ』の失踪のニュースの方が、スキャンダラスに扱われていたのだった。
南国の片隅で起こった軍事クーデターと。
日本の大物TVプロデューサーの失踪と。
その2つを結びつけることができた者など、果たしていただろうか?島国『バラライカ』に降り立ったケンジの前に現れたのは、軍事政権のブレーンである女性宰相だった。
ローティーンの少女にしか見えないその姿に、内心では驚きつつも話を聞くと、彼女がケンジを呼び寄せた理由は1つ。
TVプロデューサーとしての能力を使い、軍事政権の広報活動……プロパガンダ……を行うこと。
『ありとあらゆる手段を以ってしても、視聴者を虜(とりこ)にする』というケンジの手腕は、正にうってつけであったのだ。
今現在、軍事政権は基盤に大きな不安を抱えていた。
政権交代を見せつけるためとはいえ、バラライカの前国王を公開処刑してしまい、民衆の支持を失っていたのだ。
前国王の一人息子を捕り逃し、未だに捕獲できていないことと併せ、軍事政権の首脳部は不安を隠し切れていなかった。
早急に民衆の怒りを逸らし、軍事政権に民意を集めなければならない。
だが、依頼はそれだけではなかった。
憎悪に歪んだ冷笑を浮かべながら、女性宰相が出したもう1つの条件は、『王の忘れ形見である娘2人に、死を上回る屈辱を与える』こと。
その2つの難題を、ケンジは悪魔のようなアイデアでもって解決しようとする。
以前の『バラライカ』は、前国王の政策であらゆる娯楽に強力な規制をかけられ、民衆は娯楽に飢えていた。
それを逆手に取り、今度は大々的に政見放送を込みにした娯楽番組を提供するのだ。
だが、ケンジが放送する番組が、ただの娯楽番組であるはずが無かった。
それは、『忘れ形見の皇女2人に対する凌辱娯楽番組』だったのだ。
皇女の誇りのことごとくを打ち砕き、淫奴へ墜ちて行く様を見せつける為に設けられた、淫猥狂気な堕落報道の数々。
悪意と劣情に彩られたTV番組は、民衆の心をどのように変えてゆくのだろうか。
――全ては、貴方の腕にかかっている