ちっちゃいメイドさん
ハートブリング 俺のオヤジが海外に単身赴任してから早一年……母さんは俺が幼い頃亡くなっているので一人暮らしの俺だが、もう両親が恋しい歳でもない。近所のスーパー(といっても、個人商店の小さな店だが)でのバイトもだいぶ馴れ、案外一人暮らしを楽しんでいる。
ま、少々家の中が荒れ果ててしまっているのがナニと言えばナニだが……そんなある日の晩、バイトが終って家に帰った俺は……今時珍しい「行き倒れ」を見た。
それも、よりによって俺の家の前で、だ。
さらにソイツは、若い女の子で……なんと、まるで「メイドさん」のようなエプロンドレスを身につけているときたもんだ!このままじゃご近所様にロクなウワサをたてられかねん。
俺はその行き倒れを介抱しようと、軽く揺すって声をかける。
俺の呼びかけに、ゆっくりと目を開くメイドさん…………そして、俺の姿を認めるや否や、なんと俺の事を「旦那様」と呼ぶのだった。
家に上げて話を聞くや否や、派手な腹の虫の音を聞かされ、買ったばかりのコンビニ弁当を献上してしまうハメになった俺。
どうも、路銀をどこかに落してしまったらしく、成田から徒歩でやって来たらしい。
しかし……よく見れば、薄汚れてはいるものの、よく見るとちょっと可愛いかも……そんな風に思っていると、彼女は一通の手紙を差し出す。
宛先は……俺。
差出人は……オヤジ!?……オヤジの手紙によると、こういう事らしい。
彼女は名を「朝倉ちまり」、日系の英国人で、両親共に日本人だそうだ。
お父さんは小さい頃に亡くなり、お母さんもやはり近年病気で亡くなったらしい。
日本・英国のどちらにも身よりはなく、住み込みでメイドをやっていた……との事だ。
が、その家の大旦那が大往生した際に、メイドやギャルソン達はごっそりと暇を申しつけられたらしい。
次の仕事先を探すにも、さすがの大英帝国も不景気らしく、なかなか雇って貰えない。
と、ちまりさんが路頭に迷っていた時に、海外赴任中のウチのオヤジと出会い、意気投合してしまったらしい。
そして、オヤジの赴任先のメイドとしてちまりさんは雇われ……半年あまりの時が過ぎた。
……と、そこまでなら「ちょっといい話」だが……その上、うちの親父はこう言ったそうだ。
「ウチのせがれのお嫁さんになると良いよ」こうして、はるばる英国から、メイドさんが……いや、俺の嫁さん候補の女の子がやってきたのだった……