かけた月は戻らない

CLOCKUP
●STORY敗戦の兆しによる虚脱感と、長く苦しい生活による倦怠感に洗われていた時代。
小説家を営む健次の元に『御引き合わせしたい人物がいる』という差出人不明の電報が届く。
指定の場所に彩江という婦人がいた。
導かれるままに彩江が連れて行く洋館に踏み入れる。
摘み取った花に囲まれ自慰行為をしている少女健次が脱ぎ捨てた靴を整頓しては再び崩す侍女。
異様な光景を前に彩江は告げた。
『お願いです!あの娘達を助けてください!』奇人病に侵された館の住人は、生の時間が限られていた。
館の名前は『悲願華』。
『彼女達に残りの時間だけでも、ゆとりを与えて欲しいの』足元で泣きながら願いを請う彩江を前にし、健次は断ることが出来なかった――。
●登場キャラクター◆姫路沙羅(ひめじさら)いつも元気で表情が豊かだが、人見知りが激しく引っ込み思案な一面もある。
余命が限られている事を気にする表情を時折見せるが、直ぐにカラ元気の中に閉じ込める。
事にも前向き。
◆夕張花月(ゆうばりかげつ)甘えん坊で舌足らず。
直ぐに涙を流すがそれが嬉し涙の時もある。
部屋は書き溜めた日記で埋まっているが、それを決して他人に読ませようとはしない。
◆白石香菜(しらいしかな)お嬢様育ちで彩江を母親と慕い、健次の子供をせがんでくる。
その心に去来するものは「奇人病」。
激しやすいが、それも不安を掻き消す手段。
余命に固執し殻から抜け出そうとしない。
◆沢渡琴音(さわたりことね)沈着冷静で病んだ館内でも常識を保つ強さを持つ。
その反面知ったかぶりをするなど、背伸びも目立ち頑固な一面もある。
健次の事を医者と信じて疑わない。
◆北條彩江『悲願華』の女主人。
細腕で奇人病の4人の看病をしつつ、館をサナトリウムとして運営する。
4人を実の子供のように愛するが、長年一人で頑張ってきたため、今にも壊れそうな状態。
◆早川健次左足が不自由な為、兵役に付かず文筆業を営む。
厭世家で自分を憎悪しているが、彼女達の為に何が出来るかを探すために『悲願華』に留まる。