BIFRONTTE~公界島奇譚~
LAPISBLUe. ◆ストーリー本州の某県某半島の南端にぽつんと浮かぶ島があった――その名は『公界島』。風光明媚を売りにした観光地であったその島に、数十年前、ある一人の男が移り住んできた。
天道醍醐――彼は人類救済を掲げる宗教団体、『救世ノ家』を島の片隅にひっそりと設立する。
醍醐はカリスマ性溢れるパフォーマンスで多くの島民たちの心を掴み、瞬く間に信者の数を増やしていった。
主人公・山田草一郎は、そんな宗教色の強い島に育ちながら信仰心に目覚めることもなく、すくすくと成長していった。
「気がついたら……大人になってた」草木が芽吹き、春が目を覚ます頃。
大学進学を期に、草一郎は上京することになっていた。
幼馴染で腐れ縁の天谷桜・若菜姉妹、貝塚仁たちも同じく島を離れることになっており、一緒に過ごせる時間も残り僅か。
やがて仁が一足早く旅立っていく。
これといった波乱もなく、島での生活が終わろうとしていた。
草一郎は桜のことを昔からかけがえのない存在と意識しており、島から旅立つ前に、はっきりと想いを伝えなくてはと思っていた。
桜はある夜、草一郎にこう告白する。
「こんな弱っちいやつだから、だれかが側にいてくれないと……すぐに心が萎んじゃうんだ」草一郎は桜が抱えている孤独を、この世界で誰よりも深く理解していると思い込んでいた。
それだけに、なかなか素直に感情を出せない自分たちをもどかしく感じていた。
そんなある日、桜は草一郎を学校に呼び出してくる。
草一郎は待ち合わせ場所である学校に赴くが、桜は待てども待てどもやってこない。
だが、約束の時間を大幅に過ぎた頃――「あの、ずっと前に着いていたんだけど……どうしても、その、中に入ってこれなくて」草一郎は桜を抱きしめ、少しだけ、想いが通じ合ったことを実感する。
「恋人になったのかはわかんないけど……まぁ、とりあえず、第一歩は踏み出せたかな」そしていよいよ、草一郎の上京の日が近づいてきた頃。
若菜が最後の思い出作りと称して、肝試しをしたいと草一郎と若菜に持ちかけてくる。
行き先は『高波邸』――そこには五年前、当時人気絶頂だった子役アイドル、高波千絵乃が住んでいた。
彼女は両親が宗教団体『救世ノ家』の熱烈な信者だったこともあり、いつからか教団の広告塔を務めていた。
だが、とある日、千絵乃は一緒に住んでいた家族ともども、謎の怪死を遂げてしまう。
それ以降、その邸宅は島の若者たちの心霊スポットとして有名になっていった。
草一郎と桜の二人は、すっかりその気になっている若菜を止めることもできず、結局、一緒についていくことになってしまう。
そして当日――三人は車で高波邸に乗りつけ、邸内に侵入する。
すっかり廃墟と化している建物の中を巡っている内に、若菜はほんの偶然から、地下への階段を発見する。
そして謎の地下室に行き着いた三人は、『救世ノ家』が信者に配布している小箱を発見する。
すっかり探偵気取りになっていた若菜は、五年前の事件を解く鍵を発見したと思い込み、強引に箱を持ち帰ってしまう。
それから三人は行きと同じく、車で帰宅しようとしたが――その途中で、通りかかったトラックに正面衝突されてしまう。
車輪が空転する音――炎が爆ぜる音――雨が地面を叩きつける音――。
草一郎は雨に濡れたアスファルトに身を投げ出されていた。
「さ……くら……さくらぁっ!」いくら叫んでも、桜は応答しない。
「グゥゥゥゥゥゥッ!」そして草一郎は意識を失う直前に、悪鬼羅刹のような顔をした若菜が――「!?」トラックの運転手をめった刺しにする場面を見る。
◆登場キャラクター●山田草一郎(やまだそういちろう)本編の主人公。
幼少の頃、考古学者の父によって島に連れられてきた。
男手一つで育てられたため、性格はわりとラフで大雑把であるが、ここぞいうときには緻密な論理力を発揮する。
息子をほっぽり出して世界中を飛び回っている父親を憎むどころか密かに尊敬している。
●天谷桜(あまやさくら)主人公の幼馴染。
若菜の一卵性双生児の姉。
絵心が豊かで、春から都内の美大にて油絵を学ぶ予定。
ルネサンス期の巨匠の絵画をこよなく愛し、将来的にはイタリアに留学したいと思っている。
どちらかというと古風な女性。
だが、世間の潮流に流されない芯の強さを持っている。
極度の料理下手だが、本人はそのことに気づいてない様子。
●天谷若菜(あまやわかな)桜の一卵性双生児の妹で、主人公とは小さい頃からの腐れ縁。
好奇心旺盛で、興味を持った対象には猪突猛進していくタイプ。
がさつな性格であることをコンプレックスに感じており、いつかは姉の桜のようにしとやかな女性になりたいと思っている。
活発な外見とは裏腹に、日本文学を愛好し、休みの日にはよく図書館に通っている。
●稲葉彰(いなばあきら)島にある唯一の出版社に勤める女編集者。
島内新聞の編集が主な仕事だが、半分趣味でオカルトを扱ったミニコミ誌を制作している。
さっぱりとしているタイプで、細かいことはあまり気にしない。
博覧強記の読書家であり、薀蓄を語り始めるとだれも止めることができない。
●天堂恵衣(てんどうけい)島を本拠地とする宗教団体、『救世ノ家』の教祖の一人娘。
実の父親が主宰する教団を快く思っていない。
飾り気のない性格をしているが、女性らしい側面も兼ね備えている。
正義感が強く、世にまかり通る不正をだれよりも憎んでいる。
●榎近菜緒(えのちかなお)どこからともなく現れた謎の少女。
島を覆っ