ーーまだ『DV」「モラハラ」という言葉もない時代ーー<あらすじ>うらぶれた木造アパートで暮らす新婚の湧水たゆ子は、「良い妻」であることを求める夫の強圧的な‘正しさ’に、静かに削られていた。
家計は火の車。
パートに出たい願いも「妻の務め」の一言で封じられ、滞納した家賃の催促に胸が凍る。
追い詰められた思考は、誰にも言えない選択肢へと揺れ始める――。
そんな彼女の疲れた瞳に、アパートの大家は甘い言葉と‘助け’をちらつかせ、心の隙間へゆっくり入り込む。
?一方で、壁一枚隔てた隣人の若者は、たゆ子と大家の関係の気配を嗅ぎ取り、弱みを盾に揺さぶりをかけてくる。
善意と打算、救いと支配が入り混じる視線に囲まれ、たゆ子は自分の‘声’を見失っていく。
?時代の名のもとに正当化された‘当たり前’が、誰を守り、誰を壊したのか。
団地の踊り場、雨の商店街、薄い壁の向こうから聞こえる生活音。
懐かしい風景の一枚一枚が、彼女の孤独と葛藤を鋭く照らす。
昭和の光と影を切り取った、背徳のドラマ。
登場人物湧水たゆ子?昭和の木造アパートで暮らす新婚の専業主婦。
穏やかな笑顔の奥に、言えない苦しみと鬱屈した感情を抱える。
慎ましい日常を守ろうとする一方で、押し殺してきた‘本当の声’が胸の内で揺れ始める。
夫?一見まじめで常識的なサラリーマン。
昭和の価値観に染まり、高圧的な態度で妻を抑圧する。
その‘正しさ’はたゆ子の息苦しさと静かな歪みを生む。
アパートの大家?世話焼きだが打算的な中年男性。
家賃の滞りを気にかけるふりで、親切と見返りの境界を曖昧にして近づいてくる。
ヒッピー風の男?隣室に住む自由奔放な若者。
軽薄な笑みと勘の鋭さで、他人の弱みと心の綻びを嗅ぎ取る。
周囲の関係の‘気配’に敏感――揺らぐ心の隙を見逃さない。
モノクロ漫画79ページ
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